レビュー

男子、三日会わざれば刮目して見よ【東野圭吾:クスノキの番人あらすじ、ネタバレ】

公開:7月18日(note)
更新:9月3日

本日は読書レビュー、東野圭吾の「クスノキの番人」です。
全451ページ・31章から構成される「クスノキの番人」、あらすじ及びネタバレ内容を記載いたします。

あらすじ

その木に祈れば、願いが叶うと言われているクスノキ。
その番人を任された青年と、クスノキのもとへ祈念に訪れる人々の織りなす物語。
不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯し逮捕されてしまった玲斗。
同情を買おうと取調官に訴えるが、その甲斐もなく送検、起訴を待つ身となってしまった。
そこへ突然弁護士が現れる。依頼人の命令を聞くなら釈放してくれるというのだ。
依頼人に心当たりはないが、このままでは間違いなく刑務所だ。
そこで賭けに出た玲斗は従うことに。
依頼人の待つ場所へ向かうと、年配の女性が待っていた。
千舟と名乗るその女性は驚くことに伯母でもあるというのだ。
あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う玲斗に彼女が命令をする。
「あなたにしてもらいたいこと――それはクスノキの番人です」と。
『秘密』『時生』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に続く新たなエンターテインメント作品。長編書き下ろし。

レビュー

東野圭吾のミステリーではなく人情系の話になります。
それこそ「あらすじ」に書いてあるように『秘密』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』同様のハートフルなストーリーとなります。
殺人はおこりません(過去の病死などはありますが)。

このブログのタイトルに「男子、三日会わざれば刮目して見よ」と書きましたが、この本には大きなテーマがあります。

  • 主人公、直井玲斗の成長物語
  • 人には言葉や手紙だけでは伝えられない思いがある
  • 関係性や接し方、態度などでも思いを伝えることができる

以上3つが『クスノキの番人』のテーマだと思いました。

主人公、直井玲斗の成長物語
仕事への覚悟もなく、責任もどこか人任せ。
人生を左右する決断さえも運任せ。
はじめはどうしようもない若者という感じでした。

しかし、クスノキの番人を務めることで様々な人と出会います。
老若男女問わず、経営者から女学生、創業者一族の後継者など、色んな出会いによって成長していきます。

「人は決して一人では生きられない、ましてや一人で成長なんてできない。人は人と出会うことで成長できる」
という古くからある格言を再認識できました。
特に30章のとある会議で主人公が発する意見はこの話の中での成長を見て感じることが出来ますので必見です。

言葉や手紙だけでは伝えられない思いがある

人は見栄を張ります。嘘も付くし後悔することもありますし邪念や雑念があります。
また、伝えても伝えきれない好意もありますし、信念や理念があります。

言葉や文字で伝えることが出来ればいいのですが、それだけでは伝えられない思いなんてたくさんあります。
この「クスノキの番人」の世界観ではある方法で言葉や文字以外で思いを伝えることが出来ます。

関係性や接し方、態度などでも思いを伝えることができる

「クスノキの番人」の中では様々な組み合わせの繋がりがあります。
その中でも一番本筋から離れているように見える、とある和菓子メーカーの前会長と息子の繋がりがあります。

前章で私は

「言葉や手紙だけでは伝えることが出来ない思いがある」

と書きましたが、この2人の関係性を見ると接し方次第で言葉や態度だけで思いを伝えることが出来るのだと思いました。

子供が昨年末に生まれました。
私も息子との接し方次第で息子への思いなどの伝わり方が違うのだと思います。
いま、この時期にこの「クスノキの番人」を読むことが出来てよかったです。
しっかりと思いを伝えていきたいと思います。

以下、「クスノキの番人」の登場人物紹介やストーリーの概要となります。
ネタバレが嫌いな方はここまでにしておいてください。

登場人物

直井玲斗…本作の主人公。警察釈放後クスノキの番人に従事する。
柳澤千舟…玲斗の伯母。玲斗にクスノキの番人を命じる。
佐治寿明…クスノキに祈念に来る参拝者。月に1~2度祈念に来る。
佐治優美…佐治寿明の娘。寿明の行動を尾行し玲斗に遭遇する。
佐治喜久生…故人。佐治寿明の兄。過去に祈念したことがある。
大場壮貴…和菓子メーカー「たくみや本舗」創業者一族の若者。
福田守男…「たくみや本舗」常務取締役。壮貴の祈念に付き添い来社する。
飯倉孝吉…地元の老人。千舟の2年先輩にあたる。

直井宗一…故人。玲斗の祖父。
直井富美…玲斗の祖母。玲斗が母を失ってからは母替わりに育てる。
直井美千恵…故人。玲斗の母。玲斗が小学生時に乳ガンにより亡くなる。

柳澤将和…柳澤グループのヤナッツ・コーポレーション代表取締役
柳澤勝重…ヤナッツ・コーポレーション専務取締役

ネタバレ(章ごとの概要)

大きなネタバレになるので読書レビュー以外に興味が無ければ以降は読まない方が良いと思います。

1章

直井玲斗が新しいクスノキの番人となっている。
佐治寿明という祈念者がやってくる。
また、佐治を追って謎の女性がやってくる。

2章

玲斗の近況について、最近1ヶ月の話となる。
1ヶ月前には留置場にいた。
以前の職場で不当解雇(義心でおこなった行為を咎められた)され、その職場に盗みに入ったが、失敗し捕まった。
祖母富美から依頼された弁護士(岩本義則)が面会にくる。
富美は唯一の肉親である。
実際の依頼人は他の人物であり、その人物の命令に従えば釈放させる。
釈放を依頼するかどうか迷ったときにいつも行うコイントスで決める。
コイントスの結果、釈放され依頼人である柳澤千舟とホテルで会う。
若かりし(40年程前)千舟、祖母・富美、祖父・宗一、母・美千恵と写る写真を見せられる。
千舟は母美千恵の異母姉になり玲斗の伯母にあたる。
姉妹の年が離れている理由は宗一が22離れた教え子富美と結婚したからであった。
富美が千舟に依頼し弁護士をたててもらい釈放されたことがわかった。
千舟の命令はクスノキの番人になることだった。

3章

番人を務めるクスノキがある場所は月郷神社(つきさとじんじゃ)である。
東京から電車1時間、バス10分、さらに徒歩で移動となる。
朝から神社の近所の人たちの参拝が頻繁にある。
中にはクスノキの見物人もいるようだ。
時期不明だが、ある時からこのクスノキに願掛けすれば叶うという伝説ができた。
その伝説はインターネットの普及によって広まり見物人が増えた。
1章に出てきた「謎の女性」は佐治の娘だった。
佐治優美という。
しつこく寿明がしていたこと、それが祈念であるなら何を祈念していたのかを玲斗尋ねる。

4章

満月の夜、2日連続で寿明がクスノキに祈念にきた。
優美もあとをつけるように来た。
玲斗は優美を注意するが、寿明の祈念を途中まで見ることになった。
寿明は鼻歌まじりで祈念していた。
佐治家は家庭で問題(祖母の介護)があり、その後寿明が不審な行動をすることからその行動を調べると、とあるマンションに頻繁に通っていることがわかった。
もう一つ、月に一度から二度夜に外出していた。
ラーメン屋、映画館、そして神社に来ていた。
なお、ここでは祈願ではなく祈念というらしい。
ルールとして「祈念の内容は聞いてはいけない」。
寿明はここ半年、月に1度か2日続けて来ているようだ。

5章

玲斗の生い立ち、母の仕事、母の死去、玲斗のこれまでの経歴。
母は夜の仕事でシングルマザー、玲斗が小学校低学年時に乳ガンで死去した。
玲斗は工業高校から食品製造会社に就職したが異物混入事故を玲斗のせいにされ、そのうち辞める。
黒服として働くがホステスと関係もったことで首になる。
その後トヨダ工機へ就職した。

6章

千舟と昼食を食べる(鰻重)。
千舟から箸の持ち方を注意される。
これまで手書きだったクスノキ祈念記録をパソコンに入力するよう指示される。
クスノキの祈念は新月と満月に集中することがわかる。
新月と満月の祈念には違いがあるがまだ教えてもらえない。
なお、「祈念」という呼び方にも意味はあるらしい。

7章

和菓子メーカー「たくみや本舗」の大場家一族の者が祈念にきた。
大場壮貴という二十歳そこそこの若者と福田守男というたくみや本舗の常務取締役。
祈念は1人の決まりだが2人で入りたいという。
しかし玲斗はその申し出を断る。
大場壮貴が祈念に行ったとき福田から「クスノキに行くのを見逃す代わりに祈念について知っていることを話す」という内容の取引を持ち掛けられるが玲斗は断る。
玲斗は社務所で待っているとまだ予定の一時間を待たずに壮貴が戻ってきた。
祈念をうまく出来なかったようだ。
また来月来るとのことであった。

8章

千舟から頼まれた祈念記録のパソコン入力を始める。
何となく5年前から始めた。
佐治喜久夫という人物が祈念に来ていたことがわかり優美に連絡した。
佐治という名字は他に知らなかったから。
すると父・寿明の実の兄ということがわかった。
5年前の4月19日新月の日のみに来ているようだ。
寿明は満月に来るので祈念の内容は違うと予測する。
喜久夫は連絡先が「らいむ園」という施設になっていた。
また喜久夫と寿明はずっと離れ離れでいたようだった。
昨日寿明に動きがあった。
吉祥寺のマンションから女性と2人で出てきた。

9章

玲斗は優美を駅前まで送る。
一人で晩御飯食べながら話を思い出す。
優美は祈念内容をもう一度確認したいとのこと。
協力を断ると録音するつもりとのこと。
玲斗が協力を拒むと勝手に設置するとのことで渋々協力することになる。

10章

福の湯で飯倉孝吉という老人に出会う。
昨年クスノキに祈念したそうだ。
玲斗は飯倉に祈念について尋ねたが教えてくれなかった。
しかし飯倉から「クスノキの力は信じてる、願いが叶うかどうかはわからない、自分の力だけではどうにもならないから、そして昔は人の死を祈ることもあった」ということを聞いた。
また柳澤千舟についてすごい人物だと聞かされた。

11章

満月を過ぎると次の新月まで祈念の予約は減る。
予約ゼロの日も多いので入力作業を勤しんでいるとある人物が予約したしばらくあとに同じ名字の人物の予約があることに気づく。
偶然にしては多い。
次の日千舟と新宿にスーツ(玲斗は一張羅という言葉を知らなかった)を買いにいく。
次の日に柳澤グループの謝恩会があるのでそこに出席するためにスーツを買うことになった。
その後、カフェで玲斗と柳澤家との千舟から関係を聞くことになる。

12章

柳澤家や千舟のこれまでについて聞かされたあと、玲斗の祖父で千舟の父である宗一との関係、実母が亡くなったあと富美と再婚した経緯、玲斗の母であり千舟の異母姉妹である美千恵が生まれたときのこと、宗一が亡くなったこと、玲斗が産まれたこと、そして美千恵が乳ガンで亡くなったときの話を聞いた。

13章

柳澤グループの謝恩会に参加した。
色々と知らないことを千舟に教えてもらう。
柳澤グループのヤナッツ・コーポレーション代表取締役の柳澤将和とその弟で専務取締役の柳澤勝重とその他親族に挨拶をする。
弁がたつ将和に色々と質問され一生懸命答えるが結局やり込められる。
柳澤グループ発展のシンボルであり千舟が開業に尽力した箱根にある「ホテル柳澤」を閉鎖する計画があるらしい。

14章

謝恩会で佐治優美、佐治寿明、大場壮貴、福田と会う。
寿明から「祈念について遺言が関係したこと、玲斗の生きている祖母が柳澤家と関係ないとすれば玲斗には祈念する機会はなかなか来ないかもしれない」ということを聞いた。
壮貴からは「祈念はできもしないことをする苦痛なこと」だと聞かされる。
また壮貴から予約手続きに戸籍謄本が必要だと聞かされる。
謝恩会後、優美と落ち合う。
明後日に横須賀の「らいむ園(優美の叔父喜久夫が最後にいた施設)」に行くことになる。
寿明が最近スマホで音楽を聴き始めたことを聞く。
カフェから帰る途中千舟を見つける。
役員会が中止になったとのこと。
しかし、玲斗が一人になった瞬間に柳澤将和、勝重に会う。
別の場所で役員会があったようだった。
玲斗はそのことを千舟には黙っておくことにした。

15章

らいむ園にいく。
道中、優美が「建築音響工学を学んでいること、コンサートホールを作ることが夢のこと、音の聞き分けには自信がある」ことを知る。
受付で池田さん、その後喜久夫担当の楢崎さんと会う。
喜久夫が重度のアルコール依存症であること、聴覚に異常があること、精神障害があること、月に1度か2度母親がきてたこと、他にも家族がいるが自分には会う資格が無いと言っていたこと、芝居が上手で若い頃芝居をかじったことがあることなどを聞く。
また、入居中一度だけ外泊したこと、それが5年前の4月19日であること、クスノキ祈念の紹介者向坂春夫さんも同じ入居者で仲良かったこと、向坂さんは喜久夫が祈念に来る半年前に亡くなったことを聞いた。

16章

翌日千舟と箱根に行き「ホテル柳澤」に泊まることになった。
玲斗は立て続けに遠出が増え「人生の歯車」が動くことを感じる。
道中、母との思い出を話す。
母については「寝ていることと化粧していることしか覚えてなく、思い出の味はカップ焼きそば」ということを話した。
ホテル柳澤の支配人、桑原義彦と会う。
桑原からなぜホテル柳澤が閉鎖するかざっくりと聞く。
簡単に言うと千舟の色を消すためとのこと。
ホテル柳澤は「お客一人一人に応じた最高のサービスを目指している」が、将和たちが目指すものと異なるとのことであった。

17章

翌朝、名物の「早起きカレー」を食べる。
カレーの思い出も千舟に聞く。
なお、今晩から祈念の予約がある。
土曜の夜は千舟が番をするので玲斗には行ってほしいところがあるとのことであった。
今晩の予約は津島秀次。
足が悪く付き添いが必要な場合は血の繋がらない者にしなくてはならない(玲斗や津島の妻はいいが津島の兄弟や子どもはダメ)。
津島は若い頃満月のときに何回かきた。
新月にくるのは初めてだった。
帰り際、津島夫妻が気になることを話しているのを偶然聞いてしまった。
津島秀次が死ぬまで津島の子ども2人に祈念のことは言ってはいけないとのことを妻と話していた。

18章

土曜の予定は「ヤナッツホテル渋谷」に泊まること。
他に予定は無し。
優美を誘って会うことになった。
チェックイン後、優美と会うまで時間があったので泊まる部屋に行った。
ホテル柳澤と違う点が多々あった。
今回の千舟の目的は将和たちと自分の違いを玲斗に教えることだったのかもしれないと考えた。
優美と会う。
優美は祖母と会いアルバムを見て、幼い父と伯父喜久夫の写真を見つけた。
喜久夫は本格的にピアノを習っていたようだった。
父に喜久夫のことを尋ねる提案を優美にしたが、それはできないと言われる。
その理由にも納得がいった。
玲斗が思う祈念の内容だが、遺言のように「残されたものに何らかのメッセージを残すようなもの」だと推理する。
渋谷で寿明が駐車する立体駐車場を見た。
ここに停めるなら人目も多いので浮気はないのではと思う。

19章

ヤナッツホテル渋谷宿泊後、千舟から特に連絡はなかった。
新月の頃祈念に来て再度また祈念に来る方も多く、ただメッセージを残すだけだと腑に落ちないと考えるようになった。
また、新月の夜に祈念した人物と同じ名字の人間がしばらくして満月の夜に祈念に訪れることが一般的だが複数人いることもあることがわかった。
例えば鈴木太郎が新月に祈念したあと、一年後の満月の頃に鈴木一郎と鈴木次郎という人物が二度続けて祈念することがあるようだった。
ある大雨の次の日、玲斗が掃除中に大場壮貴と出会う。
壮貴から祈念がうまくいかない例はあるのか、その場合どうなるか聞かれたが玲斗には答えれなかった。
玲斗は壮貴にメッセージをうまく受け取れなかったか聞くと、「メッセージという言い方ではなく念だと聞いていたがそういうことだ」と答えた。
父の大場藤一郎の遺言で自分しかクスノキの祈念が出来ないことになっていた。
そう指定すると他の人間には祈念は出来ないとのこと。
後継者問題でたくみや本舗がゴタゴタしているので壮貴は焦っているようだった。
壮貴は藤一郎が年を取って産まれた二番目の妻の子どもだった。
なお藤一郎と壮貴の母は30歳程離れている。

20章

満月の前日、佐治寿明が祈念にきた。
優美はその日盗聴、受信、録音の機器を準備していた。
鼻唄と静寂とピアノの伴奏とが連続していた。
その後時間が残っているのに寿明が出てきた。
玲斗と優美が盗聴していたことがバレた。
しかし、優美は父が女性と会うことを疑っていること、この際隠していること全て聞きたいと懇願して寿明も納得した。

21章

寿明視点の佐治家の話。
兄、喜久夫は子供のときピアノの才能があったこと、音大に行ったが挫折し退学したこと、劇団に所属したこと、一度だけ会いに行ったこと、父が亡くなったときに来なかったこと、その理由はアルコール依存症になり精神障害を持ったことと意思疎通が出来なくなっていたこと、らいむ園で亡くなったこと、らいむ園では難聴があるもののある程度意思疎通が出来るようになっていたこと、喜久夫が亡くなってから母貴子が認知症を発症したこと、以上のことを聞いた。
貴子が施設に入ったことで寿明としては夫婦や優美のことだけ考えればいいと思うようになった。

22章

しかし、貴子の部屋で兄喜久夫からの手紙を見つけたことでまだ考えないといけないことが出てきた。
その手紙には「月郷神社のクスノキに預けました。どうか受け取りに行ってください。」とだけ書いてあった。
調べて実際に月郷神社にいき、管理者の老人から柳澤千舟を紹介してもらう。
寿明は千舟から下記のことを聞いた。
・新月の日に念を預け(預念という)、満月の日に念を受け取る(受念という)。
・受念は預念者の血縁者しか出来ない。
・ただし預念者が受念者を特定していたらその者しか受け取れない。

そして、次の満月の日に寿明はクスノキに行った。
相手(喜久夫)との思い出に浸り肩の力を抜いた瞬間、喜久夫の思いが流れ込んできた。
後悔、懺悔、詫びそして母貴子への感謝と思い。
そしてピアノの伴奏が聞こえてきた。
貴子へ捧げるために喜久夫が作った曲だった。
この日感動した寿明は翌日も予約した。
満月より受念の力は弱まるらしいが、この日は父弘幸や寿明への思いも受け取った。
そして喜久夫の贖罪ともいえる曲が流れていた。

23章

ピアノで演奏した曲を流したが、この曲を演奏したのが寿明が吉祥寺で会っていた女性で岡崎実奈子というピアノ講師で音楽ライターだった。
寿明は受念する度に喜久夫が作った曲を形にしたいと思っていたが自分にはその力がない。
頭から離れず鼻歌を歌っていたが耳で聞きたくなった。
音楽講師をしている同級生に相談して岡崎を紹介してもらった。
初めは嘘をついて子供のときに聞いた曲を形にしたいということにしていたが、曲調をうまく説明できない、曲の途中からしか鼻歌で歌えないなど受念通りに作れないことから岡崎には本当のこと(クスノキで受念して曲を聞いている)を話し、より完成度の高いものに仕上げようとしていた。
受念時にボイスレコーダーを持ち込み受念した瞬間から鼻歌を録音して、ということを繰り返した。
そのうち本格的に曲を録音するために渋谷のスタジオに行った。
まだ曲自体は未完成であったが、話した結果優美と寿明の関係は修復された。
この仕事、役割を与えてくれた千舟に玲斗は感謝した。

24章

翌日千舟がやってきてクスノキの番人としての心得、マニュアルを玲斗にわたした。
佐治寿明から昨晩、祈念理由について玲斗に話したと聞かされたからだ。
あまり千舟は詮索しなかったそうなので録音まではバレなかった。
それより重要なことは玲斗が祈念について理解しつつあるということだった。
念は遺言では伝えられない複雑で漠然とした思いを正確に伝えることができる。
念は偽ることも装飾することもできない、とのことだった。
また次の役員会で千舟は顧問退任になるとのことだった。
夜に優美と寿明が祈念にきた。
優美がまず挑戦したが受念できなかった。
寿明は曲が完成したら貴子に聞かせたいと考えているようだった。

25章

大場壮貴と福田が祈念にやってきた。
福田を車で待たせ壮貴と玲斗が2人になって、壮貴の出自について話した。
壮貴は大場藤一郎の実子ではないこと、母には藤一郎と関係を持つ直前まで付き合っていた妻子ある男性がいたこと、その人の子を妊娠していたがそれをお互い理解したまま結婚したこと、それでも藤一郎は壮貴のことを実子として可愛がって育てたこと、壮貴は14歳のときに藤一郎本人からその事実を聞かされていたことなど。
なお、玲斗は壮貴が藤一郎の実子じゃないことに薄々気づいていた。
ただ、なぜ藤一郎は祈念を行い、壮貴にだけ受念出来るようにしたのかはわからないままである。

26章

岡崎が演奏するピアノを玲斗、優美、寿明3人で聴く。
もう少しで完成しそうだが。
寿明の頭の中にある音をクスノキに預念し、それを優美に受念させることにする。
いざ、新月の日、寿明は迷ってしまう。
預念は信念や理念といったもの以外に邪念や雑念も預かり伝えてしまうから。
それが怖かったが、優美から発破をかけられ預念することにする。
寿明は優美から「知らなくてもいいこと、背負わなくていいことまで受け取ることになっても家族だからいい」といわれた。

27章

玲斗は千舟の自宅に行った。
自宅の鍵などを預かった。
子どもがいない千舟にとって、妹の息子である玲斗が唯一の相続人になるとのことだった。
土地は柳澤グループのものだが家の中のものは全て玲斗のものになるとのこと。
家の中の隠し扉の先にある「クスノキの祈念記録」は誰にも話さず玲斗に管理してほしいとのことだった。
古いもので150年前とのこと。
また祈念に必要な蝋燭作りも伝授するとのことだった。
玲斗に将来を尋ねるが玲斗は「生まれるべき人間じゃない自分には大した人生は生きれない」と答える。
しかし、千舟は玲斗に「人は誰しも生まれてきた理由がある」と伝える。
その後、銭湯で飯倉と出会う。
ヤナッツホテル渋谷に泊まった日、飯倉が祈念の予約をしたが行ってないとのことだった。

28章

優美が満月に近い日に受念にきた。
無事に受け取れたようだった。
喜久夫が作った曲と岡崎の演奏との違いもはっきりわかった。
また、寿明の色んな念をも受け取った。
玲斗は優美が話す「預念をするということは、自分の人生に後ろめたいことは何一つないと内外に示すことになる」という考えに合点がいった。
その考えを反芻したとき、これまで見えなかったものが突然見えた気がした。

29章

壮貴が受念にきた。
玲斗は壮貴に「藤一郎からの念を受け取ったことにすればいい」とアドバイスした。
壮貴はそれはバレると言ったが、玲斗は「藤一郎が生きていればどうするか、どう考えたかそれを想像すればいい」といった。
理念や信念は身体に染み込んでるはずだから。
預念や受念なんて大場親子には必要ない。
なぜ受念出来ないのに受念を認めたのか、それは藤一郎は壮貴のことを信じていたからだと。

次の日福田が会いに来た。
壮貴の受念について玲斗が入れ知恵したと思ったからであった。
福田は藤一郎と壮貴の関係についての真相は知っていた、受念できるはずないことも知っていたが突然できたので疑いを持った。
玲斗は「壮貴から相談されたこと、考えた結果、藤一郎が預念したのは自分の人生に嘘は一つもないことを周りに示すため、壮貴の出生に疑問持つものにも疑いを晴らす意味がある」という考えにたどり着いたことを話した。
壮貴が受念できれば誰も文句言えない、つまり藤一郎が望むことは壮貴が受念できたふりをすること。
それによる不安もあったかもしれないが藤一郎は自分の思いや考えを別の形で壮貴に伝えてきた手応えがあった。
壮貴が話した受念内容は福田から見ても藤一郎の志を受け継いだと、思った。
その晩、玲斗は受念を試みる。

30章

玲斗は千舟の家を訪ねる。その日は役員会の日だった。
駅まで見送るが直後に玲斗に千舟から電話がかかった。
手帳がないと。
玲斗は見送る途中に手帳を抜き取っていた。
見つけたと報告し、会社まで持っていくと伝えた。
会社まで持っていき役員会に入り込んだ。
役員会でホテル柳澤の閉館が決まった。
千舟が役員会から出ようとすると玲斗が役員たちに意見をした。
このままでは柳澤グループの念が切れてしまうがそれでもいいのかと。
玲斗は千舟の預念を受念していたのであった。
千舟は玲斗がヤナッツホテル渋谷に泊まった日に預念をしたのであった。
念とは魂であり生き様、代々の念を唯一千舟が受け取っている。
ヤナッツホテルもホテル柳澤の理念をもとに作られている。
食べ物もそうだと。
功労者の功績まで消していいのかと。

しかし、役員会の決定が覆ることなく部屋を千舟と玲斗は出た。
顧問退任は千舟から言い出したと知っていたが千舟の代わりに伝えないといけないと思って伝えた。

31章(最終章)

優美から曲が完成したと連絡があった。祖母貴子がいる施設にあるホールでクリスマス演奏会ということで演奏されることになった。
玲斗と千舟もお誘いをうけ行くことに。
演奏は岡崎である。
聴くとやはり今まで聴いたものとまるで違った。
もちろん曲は一緒だが音の重なりや構成などがまるで違った。
すると貴子が喜久夫のピアノだと泣き出した。

玲斗と千舟は帰途につく。
実は千舟は認知障害を発症していた。
玲斗は薄々気づいていた、確信は受念時だが色々なシーンで気づいた。
千舟は将和にだけ伝えていて、それで顧問を退いた。
謝恩会後の役員会も千舟は忘れていたのだった。
千舟にとって認知障害を患ったことで一番の心配はクスノキの番人だった。
玲斗も考えたがずっと連絡もとっていなかったし迷っていたら富美から玲斗が警察に捕まったと連絡があった。
玲斗に対して失望もしたが、玲斗を後継者と選んだのは美千恵への償いがあったからであった。
千舟はずっと悔やんでいた。
妹である美千恵と姉妹関係を築けなかったこと、父の再婚を祝福出来なかったこと、挙げ句の果てに妹を見捨ててしまったことに。
美千恵の死が千舟に深い傷を作ったが、しばらくそのことは考えないようにした。
しかし、玲斗の存在を知り美千恵にしてやれなかったことをする時だと思った。
美千恵への詫びとクスノキの番人の後継者問題を一度に解決出来たのだった。

千舟はこれから旅に出ようとしていた。
玲斗は必ず帰ってくるよう約束した。
旅先で劇薬を飲むイメージが思念として受念していたからだ。
自分にはまだ千舟が必要だと。
千舟はこれから忘れていくことが怖かった。
玲斗のことさえも忘れるかもと。
玲斗はそれでもいいと。
それは千舟自身が日々新しい自分になれるということだし、それを自分は受け入れると。
千舟は美千恵を羨ましいと思った。
素晴らしい息子と一緒に暮らせたことを。
(ちなみにホテル柳澤は一年存続を伸ばすことが決定した。
玲斗の発言の甲斐あって、改めて協議することになったそうだ)

千舟はもう少し生きていいか、自分にその価値があるかを玲斗に問う。
玲斗の答えは「今の気持ちをクスノキに預念して伝えたい」ということであった。

しかし、二人はクスノキを通さなくてもお互いの思いを、念を伝えることが出来たような気がした。

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